二重国籍(重国籍)とは、一人の人が同時に二つ以上の国籍を持つ状態を指します。日本の国籍法は二重国籍を原則として認めておらず、一定の期限内に国籍の選択を求めています。しかし現実には、国際結婚で生まれた子どもや海外で出生した日本人の子どもなど、意図せず二重国籍の状態になるケースは少なくありません。この記事では、二重国籍に関する日本の法制度、発覚するケースやリスク、2026年時点の最新動向までを実務の観点から詳しく解説します。
目次
日本における二重国籍の法的な扱い
日本の国籍法は、二重国籍(重国籍)を原則として認めない立場をとっています。国籍法第十四条では、外国の国籍を有する日本国民は、一定の期限までにいずれかの国籍を選択しなければならないと規定しています。
具体的な法的根拠は以下のとおりです。
- 国籍法第十四条は外国の国籍を有する日本国民は、二十二歳に達するまでに、またはその後二年以内に国籍の選択をしなければならない
- 国籍法第十一条第一項は日本国民が自己の志望により外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う
- 国籍法第十五条は法務大臣は、国籍選択の催告を行い、催告を受けた日から一か月以内に日本国籍を選択しなければ、日本国籍を失うことがある
- 国籍法第十六条は日本国籍を選択した者は、外国の国籍の離脱に努めなければならない(努力義務)
注目すべき点は、「外国の国籍の離脱に努めなければならない」という規定が努力義務にとどまっていることです。日本国籍を選択する旨の宣言をしても、外国籍を実際に離脱したかどうかの確認手続きは設けられていません。このため、法律上は二重国籍を解消すべきとされながらも、事実上、二重国籍の状態が継続している人が相当数存在するとされています。
法務省も、国籍選択の催告(国籍法第十五条)を実際に行った事例は極めて少ないことを認めており、制度と実態の間に大きなギャップが生じているのが現状です。
二重国籍になる主なケース
意図的に二重国籍を取得するケースだけでなく、本人が意識しないうちに二重国籍の状態になっているケースもあります。主なパターンを整理します。
国際結婚で生まれた子ども(血統主義と出生地主義の交差)
最も多いのが、日本人の親と外国人の親の間に生まれた子どもが二重国籍になるケースです。日本は血統主義(父母両系血統主義)を採用しており、父または母が日本人であれば子どもは日本国籍を取得します。一方、相手の親の国も血統主義を採用している場合、その国の国籍も同時に取得します。
さらに、アメリカ、カナダ、ブラジルなど出生地主義を採用する国で生まれた場合は、親の国籍にかかわらず生まれた国の国籍を自動的に取得するため、日本人同士の子どもであっても二重国籍になり得ます。
| パターン | 例 | 二重国籍の可能性 |
|---|---|---|
| 日本人×血統主義国の外国人 | 日本人とフランス人の間に生まれた子 | 日本国籍とフランス国籍を取得 |
| 日本人×出生地主義国で出生 | 日本人夫婦がアメリカで出産 | 日本国籍と米国籍を取得 |
| 日本人×出生地主義国の外国人 | 日本人とブラジル人の子がブラジルで出生 | 日本国籍とブラジル国籍を取得 |
| 日本人×血統主義国の外国人で出生地主義国在住 | 日本人と韓国人の子がカナダで出生 | 日本国籍・韓国籍・カナダ国籍を取得(三重国籍) |
外国籍の取得(帰化)による二重国籍
日本国民が自己の志望により外国の国籍を取得した場合、国籍法第十一条第一項により自動的に日本国籍を失うとされています。しかし実務上は、外国の国籍を取得したことを日本政府に届け出なければ、戸籍上は日本国籍を保持した状態が続きます。
たとえば、アメリカ市民権を取得した元日本人が、日本の戸籍の「国籍喪失届」を提出していなければ、書類上は日本国籍を保持しているように見えます。法律上はすでに日本国籍を喪失しているにもかかわらず、事実上の二重国籍状態が生じるのです。
婚姻による国籍取得
一部の国では、その国の国民と婚姻することにより自動的に国籍を付与する制度を設けています。日本人がこうした国の国民と結婚し、自動的に相手国の国籍を取得した場合は、自己の志望による取得ではないため、国籍法第十一条は適用されず、日本国籍を失いません。結果として二重国籍の状態になります。
国籍回復・再取得
帰化によって外国籍を取得し日本国籍を喪失した人が、その後に外国籍を離脱し、日本への帰化申請を行って日本国籍を再取得するケースがあります。この場合、外国籍の離脱が完了していれば二重国籍にはなりませんが、手続きのタイミングによっては一時的に二重国籍の状態が生じる可能性があります。
二重国籍が発覚するケースとリスク
日本政府が二重国籍を積極的に調査・摘発する体制をとっているわけではありませんが、以下のような場面で二重国籍が発覚する可能性があります。
二重国籍が発覚しやすい場面
- パスポートの更新手続き時に外国のパスポートの所持が判明した場合
- 日本への入国・出国時に、出入国在留管理庁の記録と外国パスポートの入出国記録に矛盾が生じた場合
- 戸籍の届出(婚姻届、出生届など)の際に外国籍の保有が判明した場合
- 相続手続きや不動産登記の際に外国の法的書類が必要になった場合
- 国政選挙への立候補や公務員への就任の際の身分調査
- 外国政府からの通知や情報共有(租税条約に基づく情報交換など)
- 本人や家族による届出・相談
二重国籍に伴うリスク
二重国籍の状態を放置した場合に想定されるリスクは以下のとおりです。
| リスクの種類 | 内容 | 深刻度 |
|---|---|---|
| 日本国籍の喪失 | 法務大臣の催告を受け、期限内に国籍選択をしなかった場合、日本国籍を失う可能性がある | 高い |
| パスポートの不正使用 | 二つのパスポートを使い分ける行為は旅券法違反に問われる可能性がある | 高い |
| 税務上の問題 | 二つの国で納税義務が生じ、二重課税のリスクがある。特にアメリカは国籍に基づく全世界課税を採用 | 高い |
| 兵役義務 | 相手国に兵役義務がある場合、その義務を果たさないと相手国で問題になる | 国により異なる |
| 外交保護の問題 | 二重国籍の場合、一方の国が他方の国に対して外交保護を行使できないとされる | 中程度 |
| 公的地位への影響 | 国会議員や公務員としての適格性が問題になる可能性がある | 該当者のみ |
ただし、実際に国籍法第十五条の催告が行われたケースは極めて稀であり、二重国籍であることだけで刑事罰が科されることは現行法ではありません。とはいえ、法的にはグレーな状態であることに変わりはなく、将来的な制度変更のリスクも考慮して対応を検討すべきです。
自己の志望で外国籍を取得した場合の特別なリスク
特に注意が必要なのは、日本人が自分の意思で外国籍を取得したケースです。この場合は国籍法第十一条により日本国籍は自動的に喪失しているため、日本のパスポートを使い続けることは旅券法に違反する行為となります。
国籍喪失届を提出せずに日本のパスポートを更新し続けた場合、後に国籍喪失が確認されると、その間の日本のパスポートによる入出国が問題視される可能性があります。また、日本国籍がないにもかかわらず選挙権を行使していた場合も、法的に問題となり得ます。
子どもが二重国籍になった場合の対応
国際結婚の増加や海外出産の増加に伴い、子どもが出生により二重国籍を取得するケースは年々増えています。保護者としてどのような手続きが必要になるかを確認しておきましょう。
出生届と国籍留保の届出
外国で生まれた子どもが出生により外国籍を取得した場合、出生の日から三か月以内に出生届とともに「国籍留保の届出」を行わなければ、出生時にさかのぼって日本国籍を失います(国籍法第十二条)。
この届出は在外日本大使館・領事館または日本国内の市区町村役場に行います。海外出産の場合は現地の大使館・領事館に届け出るのが一般的です。
- 届出期限は出生の日から三か月以内(届出の日ではなく出生の日から起算)
- 届出先は在外日本大使館・領事館、または本籍地の市区町村役場
- 届出人は父または母(嫡出子の場合)
- 届出書の「日本国籍を留保する」欄に署名することで国籍留保の意思表示とする
三か月の届出期限を過ぎると日本国籍を失うため、海外で出産した場合は速やかに届出を行ってください。この期限は厳格に運用されており、天災等の不可抗力を除き、期限の延長は認められません。
国籍選択の期限と手続き
二重国籍の子どもは、二十二歳に達するまでにいずれかの国籍を選択する必要があります(国籍法第十四条)。二十歳になった後に二重国籍になった場合は、その時から二年以内に選択しなければなりません。
国籍選択の方法は以下の二つです。
| 選択方法 | 手続き | 効果 |
|---|---|---|
| 日本国籍を選択する場合(方法1) | 市区町村役場に「国籍選択届」を提出し、日本国籍を選択する旨を宣言する | 日本国籍を保持。外国籍の離脱は努力義務 |
| 日本国籍を選択する場合(方法2) | 外国の国籍を離脱した上で、「外国国籍喪失届」を市区町村役場に提出する | 日本国籍のみ保持 |
| 外国籍を選択する場合 | 市区町村役場に「国籍離脱届」を提出し、日本国籍を離脱する | 日本国籍を喪失。外国籍のみ保持 |
実務上、多くの方は方法1の「国籍選択届」を提出して日本国籍を選択する方法をとっています。この場合、外国籍の離脱は努力義務にとどまるため、日本国籍を選択しつつ外国籍も事実上保持し続けることが可能です。
子どもに国籍選択を迫る前に考えておくべきこと
保護者として、以下の点を子どもと一緒に検討されることをおすすめします。
- 将来の居住地の希望(日本で暮らすか、外国で暮らすか)
- それぞれの国の社会保障制度、教育制度、就労機会
- 兵役義務の有無(相手国に兵役がある場合)
- 相手国が二重国籍を容認しているかどうか
- 税務上の影響(特にアメリカ国籍の場合は全世界課税)
- パスポートの利便性(ビザなし渡航先の数など)
(国籍選択は人生を左右する重大な決断です。期限があるとはいえ、十分な情報収集と検討を行った上で判断されることが大切です。当事務所でも国籍に関するご相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください)
二重国籍をめぐる最新の動向(2026年時点)
二重国籍に対する世界的な潮流と日本国内の議論について、最新の動向を整理します。
世界的には二重国籍を容認する国が増加傾向
世界的に見ると、二重国籍を容認する国は増加傾向にあります。グローバル化の進展に伴い、人材の国際移動を促進する観点から、従来は二重国籍を認めていなかった国でも制度を改める動きが見られます。
| 国・地域 | 二重国籍に対する態度 | 備考 |
|---|---|---|
| アメリカ、カナダ、イギリス、フランス | 容認 | 古くから二重国籍を認めている |
| 韓国 | 条件付き容認 | 2010年の国籍法改正で限定的に容認 |
| ドイツ | 条件付き容認 | 2024年の法改正でEU市民以外にも容認範囲を拡大 |
| 日本 | 原則不容認 | 国籍選択制度を維持。ただし催告の実績はほぼなし |
| 中国 | 不容認 | 外国籍取得で中国籍を自動喪失 |
日本国内の議論の状況
日本国内でも、二重国籍を認めるべきだという議論は以前から存在します。主な論点は以下のとおりです。
- 海外在住の日本人が現地の国籍を取得しやすくなることで、海外での活動基盤が安定する
- 国際結婚で生まれた子どもに二重国籍を認めることで、アイデンティティの問題を緩和できる
- 在外邦人の権利保護が強化される
- 日本の人材の国際競争力が向上する
一方で、反対意見としては以下のような懸念が示されています。
- 国家への帰属意識の希薄化(特に有事の際の忠誠の問題)
- 二重国籍者による参政権の行使が不当にならないか
- 租税回避や脱税への悪用の懸念
- 外交保護権の行使に関する国際法上の問題
2026年現在、日本の国籍法の基本的な枠組みに大きな変更はありませんが、国際社会の動向を踏まえて法改正の議論が続いているのが現状です。法務省法制審議会における議論の動向に引き続き注目する必要があります。
在外邦人からの声と司法判断
海外に居住する日本人から、外国籍を取得しても日本国籍を失わないようにすべきだという声は根強く上がっています。過去には、国籍法第十一条第一項(自己の志望で外国籍を取得した場合に日本国籍を失うとする規定)が憲法違反であるとして提訴された事例もあります。
裁判所はこれまでのところ合憲判断を示していますが、学説では違憲の可能性を指摘する見解もあり、今後の司法判断が注目されています。
二重国籍に関するよくある質問
二重国籍を隠し続けることはできますか
法的にはできません。前述のとおり、国籍法は国籍選択の義務を課しており、二重国籍の状態を積極的に維持することは法の趣旨に反します。ただし、現行の制度では二重国籍を網羅的に把握する仕組みがなく、催告の実績もほぼないことから、事実上、二重国籍の状態が長期間継続しているケースは存在します。しかし、制度の変更や運用の厳格化により、将来的にリスクが顕在化する可能性は否定できません。
二重国籍でも日本のパスポートは使えますか
日本国籍を保有している限り、日本のパスポートを使用すること自体は違法ではありません。ただし、日本出入国時には日本のパスポートを使用し、相手国出入国時にはその国のパスポートを使用するという「使い分け」が一般的に行われています。この使い分け自体について明確に禁止する規定はありませんが、入管当局が問題視する可能性はあります。
なお、自己の志望で外国籍を取得し、法律上すでに日本国籍を喪失している場合は、日本のパスポートを使用し続けることは旅券法違反となります。
帰化した場合も二重国籍になりますか
帰化により日本国籍を取得する場合、帰化の条件として国籍法第五条第一項第五号で「国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によってその国籍を失うべきこと」が求められています。つまり、原則として元の国籍を離脱することが帰化の条件です。
ただし、相手国の法律上、国籍の離脱ができない場合や、離脱に著しい困難がある場合は、この条件が緩和されることがあります(国籍法第五条第二項)。この場合は、帰化後も元の国籍が残り、事実上の二重国籍になる可能性があります。
子どもの国籍選択を二十二歳までにしないとどうなりますか
国籍法上、法務大臣が国籍選択の催告を行うことができ、催告を受けた日から一か月以内に日本国籍を選択しなければ日本国籍を失うとされています。しかし、実際に催告が行われた例はほとんどなく、期限を過ぎたからといって直ちに日本国籍を失うわけではありません。とはいえ、法的な義務である以上、期限内に国籍選択の手続きを行うことが望ましいです。
最後に
日本の国籍法は二重国籍を原則として認めていませんが、制度と実態の間に大きなギャップがあるのが現状です。特に、国際結婚で生まれた子どもの国籍問題や、海外で外国籍を取得した日本人の国籍喪失問題は、個々の事情により対応が異なります。
国籍に関する問題は、一度誤った判断をすると取り返しがつかない場合があります。帰化申請や国籍選択の手続きについてお悩みの方は、行政書士などの専門家に相談されることをおすすめします。当事務所「在留資格センター」では、帰化申請のサポートはもちろん、国籍に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。


