外国人労働者を雇用する企業にとって、社会保険の加入や税金の取扱い、年末調整の手続きは「日本人と同じでよいのか、それとも違う対応が必要なのか」が悩みどころです。原則として外国人労働者にも日本の社会保険や税法が適用されますが、社会保障協定や租税条約の適用、扶養控除の取扱いなど、外国人特有の論点がいくつかあります。この記事では、企業の人事・経理担当者が押さえておくべきポイントを体系的に解説します。
目次
外国人労働者の社会保険加入義務
外国人労働者も、日本人と同じ要件で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務があります。国籍や在留資格にかかわらず、加入要件を満たす場合は加入させなければなりません。
健康保険・厚生年金保険の加入要件
| 要件 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 適用事業所で常時使用される | 法人の事業所、または常時五人以上の従業員がいる個人事業所 | 業種による例外あり |
| 短時間労働者の場合 | 週の所定労働時間が正社員の四分の三以上 | 四分の三未満でも、一定規模以上の事業所では追加要件で適用 |
| 短時間労働者の追加要件 | 週二十時間以上、月額賃金八万八千円以上、二か月を超える雇用見込み、学生でないこと | 従業員五十一人以上の企業が対象(2024年10月〜) |
「外国人だから社会保険に入らなくてよい」という認識は誤りです。在留期間が短い場合でも、加入要件を満たせば加入義務があります。社会保険に加入させなかった場合、企業には罰則(六か月以下の懲役または五十万円以下の罰金)が科される可能性があります。
社会保障協定の適用
日本は複数の国と社会保障協定を締結しています。社会保障協定の適用を受ける場合、派遣元国の社会保険に加入したまま日本で就労できるため、日本の厚生年金保険への加入が免除されるケースがあります。
| 協定相手国(主なもの) | 年金の適用免除 | 医療保険の適用免除 |
|---|---|---|
| ドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、オランダ | あり | あり(一部の国) |
| イギリス、韓国、イタリア | あり | なし |
| 中国、ブラジル、フィリピン | 協定未締結(2026年時点) | 協定未締結 |
社会保障協定が適用されるためには、派遣元国の社会保険機関が発行する「適用証明書」を取得し、日本の年金事務所に提出する必要があります。適用を受けられるのは原則として派遣期間が五年以内の場合です。
脱退一時金制度
日本の厚生年金保険に加入していた外国人が、年金を受給するための最低加入期間(十年)を満たさずに帰国する場合、脱退一時金を請求することができます。
- 請求できる期間:日本を出国した後二年以内
- 支給額:加入期間に応じた金額(最大六十か月分)
- 請求先:日本年金機構
- 日本に住所を有しなくなった日に被保険者資格を喪失していることが条件
帰国する外国人にはこの制度の存在を伝え、必要な手続きを案内することが企業の良好な雇用管理の一環です。
雇用保険の加入
外国人労働者も、雇用保険の加入要件を満たす場合は加入義務があります。加入要件は日本人と同じで、週の所定労働時間が二十時間以上かつ三十一日以上の雇用見込みがある場合です。
ただし、以下のケースでは雇用保険に加入できません。
- 留学の在留資格で資格外活動許可を得てアルバイトをしている場合(昼間学生であるため)
- ワーキングホリデーの在留資格で就労している場合
外国人労働者の税金の取扱い
外国人労働者の所得税・住民税の取扱いは、「居住者」か「非居住者」かによって大きく異なります。
居住者と非居住者の区分
| 区分 | 定義 | 課税方法 |
|---|---|---|
| 居住者(非永住者以外) | 日本に住所を有する、または引き続き一年以上居所を有する者で、過去十年以内に五年超日本に住所・居所を有する者 | 全世界所得に課税 |
| 居住者(非永住者) | 日本国籍がなく、過去十年以内に五年以下の期間、日本に住所・居所を有する者 | 国内源泉所得と国外源泉所得のうち国内で支払われたものに課税 |
| 非居住者 | 居住者以外の個人 | 国内源泉所得のみに課税(原則20.42%の源泉分離課税) |
多くの外国人労働者は来日後一年以上日本に居住するため、「居住者」として日本人と同じ所得税の課税方式(累進課税・年末調整)が適用されます。
租税条約の適用
日本は多くの国と租税条約を締結しています。租税条約が適用される場合、一定の要件のもとで所得税が減免または免除されることがあります。
特に以下のようなケースで租税条約の恩典が適用される可能性があります。
- 短期滞在者免税:暦年で百八十三日以内の滞在で、一定の要件を満たす場合に給与所得が免税
- 教授等の免税:大学等で教育・研究を行う教授等が一定期間の報酬について免税
- 学生の免税:留学中の学生が受け取る一定の所得について免税
租税条約の適用を受けるためには、「租税条約に関する届出書」を給与の支払者を経由して税務署に提出する必要があります。企業の経理担当者は、雇用する外国人の出身国との租税条約の内容を確認してください。
住民税の取扱い
住民税は、毎年一月一日時点で日本に住所を有する者に課税されます。外国人も例外ではありません。前年の所得に基づいて課税されるため、来日一年目は住民税がかかりませんが、二年目以降は課税されます。
帰国する外国人について注意が必要なのは、帰国後も住民税の納税義務が残ることです。一月一日時点で日本に住所があれば、その年度の住民税は全額課税されます。帰国前に「納税管理人」を届け出るか、一括徴収を行う必要があります。
年末調整の外国人特有の注意点
居住者に該当する外国人労働者についても、日本人と同様に年末調整を行います。ただし、以下の点で日本人とは異なる対応が必要になることがあります。
扶養控除の適用(海外に住む親族)
外国人労働者が海外に住む親族を扶養親族として申告し、扶養控除を受けるケースは多いですが、近年の税制改正により要件が厳格化されています。
| 確認事項 | 内容 | 必要書類 |
|---|---|---|
| 親族関係の確認 | 扶養親族に該当する親族であることの確認 | 戸籍謄本、出生証明書、婚姻証明書等(翻訳添付) |
| 送金関係の確認 | その親族の生活費等を送金していることの確認 | 送金関係書類(金融機関の送金明細書、クレジットカードの利用明細書等) |
| 三十歳以上七十歳未満の非居住者親族 | 2023年分以降、留学生、障害者、三十八万円以上の送金を受けている者以外は対象外 | 留学ビザの写し、障害者手帳の写し、三十八万円以上の送金証明 |
2023年の税制改正により、三十歳以上七十歳未満の海外居住親族は、留学生・障害者・年間三十八万円以上の送金を受けている者に該当しない限り、扶養控除の対象外となりました。この改正により、以前は多数の海外親族を扶養に入れていた外国人労働者の扶養控除が大幅に制限されています。
配偶者控除・配偶者特別控除
海外に住む配偶者についても扶養控除と同様の確認書類が必要です。配偶者の所得が一定額以下であることの確認も必要ですが、海外の配偶者の所得を正確に把握することは実務上困難な場合があります。申告内容に疑義がある場合は、本人から詳細な説明と裏付け資料を求めることが企業の適正な年末調整の実務として重要です。
生命保険料控除・社会保険料控除
外国人労働者が海外の保険会社で加入している生命保険は、日本の生命保険料控除の対象外です。控除対象となるのは、日本国内に本店を有する保険会社等と締結した保険契約に限られます。
一方、母国で支払った社会保険料については、社会保障協定により日本の社会保険が免除されている場合、母国の社会保険料は日本の社会保険料控除の対象にはなりません。日本の厚生年金保険料・健康保険料を支払っている場合は、日本人と同様に控除が適用されます。
マイナンバーの取得と対応
中長期在留者として住民登録をした外国人にはマイナンバー(個人番号)が付与されます。年末調整の際には、日本人と同様にマイナンバーの記載が必要です。マイナンバーカードを取得していない場合は、通知カードと在留カードの組み合わせで本人確認を行います。
労災保険の適用
労災保険は、雇用形態や国籍にかかわらず、すべての労働者に適用されます。外国人労働者が業務中または通勤中に負傷した場合は、日本人と同じく労災保険の給付を受けることができます。
- 不法就労の外国人であっても、労災保険は適用される
- 労災保険料は全額事業主負担であり、外国人本人の負担はない
- 労災事故が発生した場合の手続きは日本人と同じ
企業が整備すべき管理体制
外国人労働者の社会保険・税金を適正に管理するために、企業として以下の体制を整えておくことをおすすめします。
- 外国人従業員の在留資格・在留期間を管理するリストを作成し、社会保険の加入状況と併せて一元管理する
- 年末調整の時期に先立ち、海外扶養親族に関する確認書類の提出を早めに依頼する(翻訳が必要な場合は時間がかかるため)
- 退職・帰国する外国人への脱退一時金制度と住民税の納税管理人の制度を事前に説明する
- 社会保障協定の適用対象者については、適用証明書の取得状況を確認し、適切に手続きを行う
- 多言語対応の書類やガイドを整備し、外国人本人が手続き内容を理解できるようにする
(外国人労働者の社会保険・税金の取扱いは、日本人の場合と基本的には同じですが、社会保障協定や租税条約、海外扶養親族の取扱いなど、専門的な知識が必要な論点もあります。不明な点がある場合は、社会保険労務士や税理士と連携して対応されることをおすすめします。当事務所「在留資格センター」でも、外国人雇用に関する総合的なご相談をお受けしています)
