ベトナム人は、2026年現在、日本で働く外国人労働者の中で最も多い国籍の一つです。技能実習生や特定技能、技術・人文知識・国際業務など、さまざまな在留資格で日本の産業を支えています。一方で、ベトナム人を採用する際には、在留資格の選び方、送出機関とのやり取り、文化的な違いへの配慮など、他の国籍の方とは異なる注意点があります。この記事では、ベトナム人の採用を検討している企業の担当者に向けて、在留資格の選び方から手続きの流れ、雇用後の注意点まで、実務に即して解説します。
目次
ベトナム人労働者の現状|日本で働く外国人の最大勢力
ベトナム人は、2020年代に入って日本で働く外国人労働者の国籍別で中国を抜き、最も人数が多い国籍となっています。厚生労働省の外国人雇用状況の届出によると、ベトナム人労働者は50万人を超えており、全体の約25%を占めています。
ベトナム人労働者が急増した背景には、以下の要因があります。
- ベトナムの経済成長に伴う海外就労への意欲の高まり
- 日本とベトナム間の二国間協定(技能実習・特定技能)の締結
- ベトナム国内の日本語教育機関の増加
- 送出機関の整備による来日ルートの確立
- 日本企業の人手不足に伴う積極的な外国人採用
在留資格別にみると、技能実習が最も多く、次いで特定技能、技術・人文知識・国際業務、留学(資格外活動としてのアルバイト)と続きます。近年は特定技能ビザでの在留者数が急速に増加しており、技能実習からの移行組も多いのが特徴です。
ベトナム人が多い業種・職種
| 業種 | 主な在留資格 | 特徴 |
|---|---|---|
| 製造業 | 技能実習、特定技能、育成就労 | 食品製造、機械加工、電子部品組立など |
| 建設業 | 技能実習、特定技能、育成就労 | 型枠施工、鉄筋施工、とび、内装仕上げなど |
| 農業 | 技能実習、特定技能 | 耕種農業、畜産農業など |
| 介護 | 技能実習、特定技能、介護 | 介護施設での介護業務 |
| 飲食料品製造 | 特定技能 | 弁当・惣菜の製造、水産加工など |
| IT・エンジニアリング | 技術・人文知識・国際業務 | システム開発、プログラミングなど |
ベトナム人採用時の在留資格の選び方
ベトナム人を採用する際には、業務内容、求める人材のスキルレベル、雇用期間に応じて適切な在留資格を選択する必要があります。主な選択肢を以下に整理します。
技術・人文知識・国際業務(技人国)|大卒以上のホワイトカラー人材
大学を卒業したベトナム人を、エンジニア、通訳、マーケティング、経理などの専門職として採用する場合は、技術・人文知識・国際業務(技人国)ビザが適しています。
ベトナムの大学を卒業している場合でも、日本の企業で技人国ビザを取得することは可能です。ただし、大学での専攻分野と業務内容の関連性が審査で重視されます。ITエンジニアとして採用する場合は情報系の学部卒業であること、通訳・翻訳として採用する場合は日本語学や言語学の学部卒業であることが望ましいです。
日本の大学や専門学校を卒業したベトナム人留学生を新卒採用する場合も、技人国ビザでの在留資格変更が一般的なルートです。
特定技能|即戦力の現場人材
製造業、建設業、介護、飲食料品製造、外食業など、特定産業分野で即戦力として働ける人材を採用する場合は、特定技能ビザが適しています。
特定技能ビザの取得には、分野ごとの技能試験と日本語試験(JLPT N4以上またはJFT-Basic)への合格が必要です。ただし、技能実習2号を良好に修了したベトナム人は、試験が免除されます。実務上は、技能実習から特定技能への移行が最も多いパターンです。
特定技能1号は最長5年の在留が可能であり、特定技能2号に移行すれば在留期間の上限なく日本で働くことができます。
育成就労(旧技能実習の後継制度)|未経験者の育成目的での受入れ
2024年の法改正で技能実習制度に代わって創設された育成就労制度は、未経験の外国人を3年間で特定技能1号の水準まで育成することを目的とした制度です。ベトナムからの受入れも引き続き行われています。
育成就労では、ベトナムの送出機関を通じて人材を受け入れるのが一般的です。受入企業は監理支援機関を通じて申請手続きを行います。
特定活動(EPA介護福祉士候補者)|介護分野での特別ルート
日本とベトナムの経済連携協定(EPA)に基づき、ベトナム人の介護福祉士候補者を受け入れる制度があります。候補者は日本の介護施設で就労しながら介護福祉士の国家試験合格を目指します。合格すれば在留資格「介護」に変更して永続的に日本で働くことが可能です。
ベトナム人を海外から呼び寄せる場合の手続きの流れ
ベトナム在住のベトナム人を日本に呼び寄せて雇用する場合の一般的な流れを解説します。
ステップ1:送出機関の選定と人材の紹介
ベトナムでは、日本への労働者の送出しはベトナム政府が認定した送出機関(労働者派遣会社)を通じて行うことが義務づけられています。送出機関は、ベトナム労働・傷病兵・社会省(MOLISA)の認可を受けた機関であり、労働者の募集・選考・事前教育・渡航手続きなどを担当します。
企業は直接ベトナム人を募集するのではなく、信頼できる送出機関を選定し、送出機関を通じて人材の紹介を受けるのが一般的です。
送出機関の選定は極めて重要です。過去には、高額な手数料を労働者から徴収する悪質な送出機関が問題になっています。日本政府とベトナム政府は送出機関の適正化に取り組んでおり、送出手数料の上限規制も強化されていますが、送出機関の評判や実績を事前に確認することが不可欠です。
ステップ2:雇用契約の締結
送出機関を通じて人材が決まったら、企業とベトナム人労働者の間で雇用契約を締結します。契約書は日本語とベトナム語の両方で作成することが望ましく、労働条件(給与、勤務時間、休日、業務内容など)を明確に記載する必要があります。
ステップ3:在留資格認定証明書(COE)の交付申請
雇用契約の締結後、企業(または行政書士)が地方出入国在留管理局にCOEの交付申請を行います。在留資格の種類に応じた申請書と添付書類を提出します。審査期間は通常1か月から3か月です。
ステップ4:ビザの取得と来日
COEが交付されたら、ベトナムの在ベトナム日本国大使館(ハノイ)または総領事館(ホーチミン)でビザの発給を受けます。ビザ取得後、日本に入国し、空港で在留カードの交付を受けます。
ステップ5:入国後の届出と生活支援
入国後は、市区町村への住民登録、社会保険・雇用保険の加入手続き、ハローワークへの外国人雇用状況の届出など、各種手続きを行います。企業側がこれらの手続きをサポートすることで、スムーズな就労開始につながります。
ベトナム人雇用における注意点
送出手数料の問題
ベトナム人労働者の来日にあたっては、送出機関に手数料を支払う必要がありますが、この手数料がベトナム人労働者に過度な負担を強いているケースが問題となっています。送出手数料が高額である場合、労働者は借金を抱えた状態で来日することになり、返済のプレッシャーから失踪や不法就労につながるリスクが高まります。
日本政府とベトナム政府は、送出手数料の上限を3,600米ドル以下とする覚書を締結しています。企業側も、送出機関が適正な手数料で運営されているか確認するとともに、労働者の負担軽減に配慮することが重要です。一部の企業では、送出手数料の一部を企業負担とすることで、優秀な人材の確保につなげています。
在留カードの確認と不法就労防止
ベトナム人を採用する際には、在留カードの確認を徹底することが法律上の義務です。確認すべきポイントは以下のとおりです。
- 在留資格の種類(業務内容に合致しているか)
- 在留期間の満了日(期限切れでないか)
- 就労制限の有無(「就労不可」「指定された活動のみ」などの記載がないか)
- 資格外活動許可の有無(留学生のアルバイトの場合)
- 在留カードの偽造チェック(入管庁のウェブサイトで番号の有効性を確認可能)
不法就労をさせた場合、事業主にも「不法就労助長罪」として3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。「知らなかった」では済まされないため、採用時の在留カード確認は徹底してください。
労働条件の明示と母国語での説明
外国人労働者に対しても、日本人と同様に労働基準法に基づく労働条件の明示が必要です。特にベトナム人の場合、日本語の理解度にばらつきがあるため、労働条件通知書をベトナム語でも作成することが推奨されます。
厚生労働省は外国語の労働条件通知書のモデル様式を公開しており、ベトナム語版も用意されています。これを活用することで、労働条件の認識の齟齬を防ぐことができます。
ベトナム人材の雇用で押さえておきたい文化的な違い
ベトナム人を雇用する上で、文化的な違いへの理解は職場環境の整備と人材定着に直結します。以下に実務上知っておくべきポイントを整理します。
テト(旧正月)への配慮
ベトナム最大の祝日であるテト(旧正月)は、ベトナム人にとって家族と過ごす最も重要な行事です。毎年1月下旬から2月上旬頃(旧暦の1月1日前後)に約1週間の連休があり、多くのベトナム人は帰国を希望します。
企業側としては、テト期間中の一時帰国を認める体制を整えておくことが、従業員の満足度と定着率の向上につながります。テト休暇の取得ルールを事前に決めておき、業務への影響を最小限に抑える工夫が必要です。
コミュニケーションスタイルの違い
ベトナム人は一般的に、上司や年長者に対して敬意を示す文化があり、直接的に反対意見を述べることを避ける傾向があります。「わかりました」と返答していても、実は理解していない場合や、異論があるが言い出せない場合があります。
業務指示を出す際には、理解度を確認するために復唱してもらう、定期的な1対1のミーティングを設けて疑問点を聞き出すなどの工夫が効果的です。
食事への配慮
ベトナム人の多くは特定の宗教的な食事制限はありませんが、個人によっては仏教の影響で肉食を避ける日(菜食日)がある場合があります。社員食堂がある企業では、食事の選択肢にベトナム料理やハラル食を加えるなどの配慮が喜ばれます。
SNSでの情報共有が活発
ベトナム人コミュニティではFacebookやZaloなどのSNSを通じた情報共有が非常に活発です。職場環境が良い企業は口コミで広まり、逆に問題のある企業の情報も瞬時に共有されます。適切な労働環境を整備し、ベトナム人社員を大切にすることが、将来の採用活動にもプラスに働きます。
住居の確保と生活支援
ベトナムから来日するベトナム人にとって、住居の確保は大きな課題です。在留カードがないと賃貸契約が難しい、保証人がいないといった問題があるため、企業が社宅を提供するか、住居の手配をサポートすることが重要です。また、銀行口座の開設、携帯電話の契約、ゴミ出しのルールなど、日常生活に関するサポートも定着率の向上につながります。
まとめ|ベトナム人採用は制度理解と文化的配慮の両輪で成功させる
ベトナム人の採用は、適切な在留資格の選択、正しい手続きの履行、そして文化的な違いへの配慮が成功の鍵です。要点をまとめます。
- 業務内容に応じて技人国・特定技能・育成就労などから適切な在留資格を選択する
- ベトナムからの呼び寄せは認定送出機関を通じて行うのが原則
- 送出手数料の適正化に注意し、労働者の過度な負担を防ぐ
- 在留カードの確認を徹底し、不法就労を防止する
- 労働条件はベトナム語でも明示することが推奨される
- テト休暇やコミュニケーションスタイルなど文化的な違いに配慮する
- 住居確保や生活支援など来日後のサポート体制を整える
ベトナム人材は勤勉で向上心が高く、適切な環境が整えば長期的に活躍してくれる貴重な人材です。在留資格の選び方や手続きに不安がある場合は、専門家にご相談ください。当事務所では、ベトナム人の採用に関する在留資格の申請支援を行っております。
