日本で働く外国人が転職する場合、日本人と同じように退職届を出して新しい会社で働き始めるだけでは不十分です。入管法上の届出義務があり、転職先の業務内容によっては在留資格の変更手続きが必要になることもあります。届出を怠ると在留資格の取消事由に該当する可能性もあるため、転職時のビザ手続きは確実に行わなければなりません。この記事では、外国人が転職する際に必要なビザ関連の手続き、届出義務、在留資格変更が必要なケースと不要なケース、そして届出を怠った場合のリスクまで、実務的な視点から詳しく解説します。
目次
外国人の転職時に必要な届出|所属機関に関する届出
外国人が転職した場合、入管法に基づき「所属機関に関する届出」を行う義務があります。これは、在留資格の活動に関連する所属機関(勤務先)に変更があった場合に、出入国在留管理庁に届け出る手続きです。
届出の対象となる在留資格
所属機関に関する届出が義務づけられている在留資格は以下のとおりです。
| 届出が必要な在留資格の区分 | 具体的な在留資格 |
|---|---|
| 就労系在留資格 | 技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、技能、特定技能、高度専門職、教授、教育、研究、興行など |
| 身分系在留資格 | 日本人の配偶者等、永住者の配偶者等(婚姻関係の変更時) |
| その他 | 留学(所属する教育機関の変更時) |
届出の期限と届出先
届出は、所属機関の変更があった日から14日以内に行わなければなりません。届出先は出入国在留管理庁であり、以下の方法で届け出ることができます。
- 窓口での届出:管轄の地方出入国在留管理局に直接提出
- 郵送での届出:東京出入国在留管理局おだいば分室宛てに郵送
- オンラインでの届出:出入国在留管理庁の電子届出システムを利用
届出の際に必要な情報は、氏名、生年月日、性別、国籍、住所、在留カード番号、変更前の所属機関名・所在地、変更後の所属機関名・所在地、変更の事由(退職、就職など)、変更年月日です。
届出が必要な変更事由
所属機関に関する届出が必要となる変更事由は以下のとおりです。
- 退職:所属機関からの離脱(自己都合退職、解雇、契約期間満了など)
- 就職:新たな所属機関への加入(転職先への入社)
- 所属機関の名称変更:社名変更など
- 所属機関の所在地変更:本社移転など
- 所属機関の消滅:会社の解散、倒産など
転職の場合は、退職と就職の二回の届出が必要です。前の会社を退職した日から14日以内に退職の届出を行い、新しい会社に入社した日から14日以内に就職の届出を行います。
在留資格の変更が必要なケースと不要なケース
転職時に在留資格の変更が必要かどうかは、転職先の業務内容が現在の在留資格の活動範囲内であるかどうかによって判断されます。
在留資格の変更が不要なケース
以下のケースでは、在留資格の変更手続きは不要です(所属機関に関する届出は必要)。
| 現在の在留資格 | 転職の内容 | 変更が不要な理由 |
|---|---|---|
| 技術・人文知識・国際業務 | IT企業のエンジニアから別のIT企業のエンジニアへ | 同じ活動範囲内の転職 |
| 技術・人文知識・国際業務 | 通訳として勤務する会社の変更 | 同じ活動範囲内の転職 |
| 技能 | 中華料理店の料理人から別の中華料理店の料理人へ | 同じ活動範囲内の転職 |
| 特定技能1号 | 同じ分野内での転職 | 同じ分野・区分内の転職(ただし変更申請が必要な場合あり) |
(特定技能ビザについては注意が必要です。同じ特定産業分野内の転職であっても、受入企業が変わるため「在留資格変更許可申請」が必要とされるケースがあります。特定技能は企業との結びつきが強い在留資格のため、転職の際は必ず入管に確認することをお勧めします)
在留資格の変更が必要なケース
以下のケースでは、在留資格変更許可申請を行う必要があります。
| 現在の在留資格 | 転職の内容 | 必要な手続き |
|---|---|---|
| 技術・人文知識・国際業務 | IT企業のエンジニアから飲食店の調理師へ | 在留資格「技能」への変更申請 |
| 技能 | 料理人から通訳・翻訳業務へ | 在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更申請 |
| 教育 | 高校の語学教師からIT企業のエンジニアへ | 在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更申請 |
| 企業内転勤 | グループ外の別企業への転職 | 在留資格「技術・人文知識・国際業務」等への変更申請 |
転職先の業務内容が現在の在留資格の活動範囲外である場合、在留資格の変更手続きを行わずに就労すると不法就労に該当します。不法就労は退去強制事由にもなり得るため、転職前に在留資格の確認を怠らないでください。
就労資格証明書の取得を検討すべき理由
同じ在留資格の活動範囲内での転職であれば在留資格の変更は不要ですが、転職先の業務が本当に現在の在留資格の範囲内であるかを確認するために、「就労資格証明書」の取得を検討することをお勧めします。
就労資格証明書とは
就労資格証明書は、外国人が現在の在留資格で行うことができる就労活動を入管が証明する文書です。法的に取得が義務づけられているものではありませんが、取得しておくことで以下のメリットがあります。
- 転職先の業務が在留資格の範囲内であることを入管が確認済みであることの証拠になる
- 次回の在留期間更新時に、業務内容の適合性について改めて詳細な審査を受けるリスクが減る
- 転職先の企業に対して、適法に就労できることの安心材料となる
就労資格証明書の申請方法
就労資格証明書の申請は、管轄の地方出入国在留管理局で行います。主な必要書類は以下のとおりです。
- 就労資格証明書交付申請書
- パスポートおよび在留カードの提示
- 転職先の会社の概要(登記簿謄本、会社案内など)
- 雇用契約書または労働条件通知書
- 転職先での業務内容を説明する書類
- 前職の退職証明書
審査期間は通常1か月から3か月程度です。手数料は1,200円(収入印紙で納付)です。
就労資格証明書を取得しなかった場合のリスク
就労資格証明書の取得は義務ではありませんが、取得せずに転職した場合、次回の在留期間更新の際に業務内容の適合性について厳しく審査される可能性があります。転職後の業務内容が在留資格の範囲外と判断された場合、更新が不許可となるリスクがあります。
特に、転職前と転職後で業務内容が大きく異なる場合は、就労資格証明書を取得しておくことを強くお勧めします。たとえば、通訳として技人国ビザを取得した方が、転職先でマーケティング業務に従事する場合などが該当します。
転職後の在留期間更新で注意すべきポイント
転職後に初めて在留期間の更新を行う場合、通常の更新申請よりも慎重な準備が必要です。
転職先の業務内容と在留資格の整合性の説明
転職先での業務内容が、在留資格の活動範囲内であることを明確に説明する書類を準備してください。具体的には、以下の書類が必要です。
- 転職先の会社概要(登記簿謄本、会社案内、決算報告書など)
- 雇用契約書または労働条件通知書
- 業務内容を具体的に説明する書類(職務記述書など)
- 転職先での勤務実績を示す書類(給与明細など)
- 前職の退職証明書
転職から更新までの空白期間への対応
退職してから次の就職まで空白期間がある場合、その期間の活動内容を説明できるようにしておくことが重要です。就労系在留資格で正当な理由なく3か月以上就労活動を行っていない場合は、在留資格の取消事由に該当する可能性があります。
空白期間がある場合は、就職活動を行っていた証拠(応募書類の控え、面接記録など)を保管しておくことが望ましいです。
付与される在留期間への影響
転職後の最初の更新では、以前と比べて短い在留期間が付与される傾向があります。たとえば、以前は3年の在留期間が付与されていた方でも、転職直後の更新では1年の在留期間が付与されることがあります。これは、転職先での業務実態を入管が確認するために、短期間で次回の更新審査を行う趣旨です。
届出義務を怠った場合のリスク
所属機関に関する届出を怠った場合、以下のリスクがあります。
在留資格の取消し
入管法第22条の4第1項第10号では、届出義務に違反した場合に在留資格の取消事由となり得ることが規定されています。ただし、届出義務違反だけで直ちに取り消されるわけではなく、正当な理由の有無や違反の程度が総合的に判断されます。
罰則(20万円以下の罰金)
所属機関に関する届出を怠った場合、20万円以下の罰金に処される可能性があります(入管法第71条の3)。虚偽の届出を行った場合も同様です。実際に罰金が科されるケースは多くありませんが、法律上の罰則が存在することは認識しておくべきです。
在留期間更新時の不利益
届出義務を怠っていた場合、次回の在留期間更新の審査で不利に扱われる可能性があります。入管は申請人の「素行の善良性」を判断材料としており、届出義務の不履行は素行面でのマイナス評価につながります。
永住許可申請への悪影響
永住許可の審査では、「法律を遵守し日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること」(素行善良要件)が求められます。届出義務違反は、この素行善良要件を満たさないと判断される一因となり得ます。
転職時に企業側が行うべき手続き
外国人の転職は、本人だけでなく企業側にも手続き上の義務があります。
退職する企業側の義務
- ハローワークへの外国人雇用状況の届出:外国人が離職した場合、翌月末日までにハローワークに届け出る義務がある(雇用対策法第28条)
- 離職票の交付:雇用保険の被保険者であった場合、離職票を交付する
- 源泉徴収票の交付:退職時の年末調整または源泉徴収票の交付
- 社会保険の資格喪失届:健康保険・厚生年金の資格喪失手続き
採用する企業側の義務
- 在留カードの確認:在留資格の種類、在留期間、就労制限の有無を確認する
- ハローワークへの外国人雇用状況の届出:外国人を雇い入れた場合、翌月末日までに届け出る義務がある
- 社会保険・雇用保険の加入手続き:日本人と同様に加入義務がある
- 労働条件通知書の交付:外国人にも労働条件を書面で明示する義務がある
企業がハローワークへの届出を怠った場合、30万円以下の罰金に処される可能性があります。外国人の採用・退職時の届出は企業の法的義務であることを認識し、確実に履行してください。
まとめ|外国人の転職はビザ手続きの確認を最優先に
外国人が転職する際には、労働契約上の手続きに加えて、入管法上の手続きが必要です。要点をまとめます。
- 所属機関に関する届出は、変更から14日以内に行う義務がある
- 転職先の業務が現在の在留資格の範囲内であれば変更申請は不要(届出は必要)
- 業務内容が異なる場合は在留資格変更許可申請が必要
- 就労資格証明書の取得で、業務内容の適合性を事前に確認できる
- 届出を怠ると在留資格の取消しや罰金のリスクがある
- 正当な理由なく3か月以上就労しないと在留資格の取消事由に該当する可能性がある
- 企業側にもハローワークへの届出義務がある
転職は外国人のキャリアアップにとって重要な機会ですが、ビザ手続きを誤ると在留資格そのものを失うリスクがあります。転職前に在留資格の適合性を確認し、必要な届出を漏れなく行ってください。不明な点がある場合は、転職前に専門家に相談することをお勧めします。当事務所では、外国人の転職に伴うビザ手続きのサポートを行っておりますので、お気軽にご相談ください。
