不法就労や不法滞在は、外国人本人だけでなく、雇用する企業側にも重大な法的リスクをもたらします。「知らなかった」では済まされず、在留資格の確認を怠っただけでも不法就労助長罪に問われる可能性があるのです。2026年の入管法改正により罰則はさらに厳格化されており、企業のコンプライアンスがこれまで以上に問われる時代になっています。この記事では、不法就労・不法滞在の定義と罰則、不法就労助長罪の要件、そして企業が取るべき対策を実務の観点から解説します。
目次
不法就労とは何か
不法就労とは、入管法に違反して就労する行為を指します。具体的には、以下の三つの類型に分けられます。
不法就労の三つの類型
| 類型 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 不法滞在者の就労 | 在留資格を持たない、または在留期間が超過した状態で就労すること | オーバーステイの外国人が働いている、密入国者が働いている |
| 無許可の就労活動 | 就労が認められていない在留資格で就労すること、または資格外活動許可を得ずに就労すること | 「留学」の在留資格で資格外活動許可を受けずにアルバイトをする |
| 在留資格の範囲外の就労 | 在留資格で認められた範囲を超えて就労すること | 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で工場の単純労働に従事する、資格外活動許可の範囲(週28時間)を超えてアルバイトをする |
いずれの類型も入管法違反であり、外国人本人に対して罰則が科されます。また、こうした外国人を雇用した企業も不法就労助長罪に問われる可能性があります。
不法滞在(オーバーステイ)とは
不法滞在とは、正規の在留資格を持たずに日本に在留している状態を指します。不法滞在には主に二つのパターンがあります。
- 不法入国は有効な旅券を持たずに入国した場合や、偽造旅券で入国した場合
- 不法残留(オーバーステイ)は正規の手続きで入国したものの、在留期間を超過してそのまま日本に残っている場合
不法残留者の数は、2026年現在、推計で約8万人前後とされています。出入国在留管理庁は不法残留者の摘発を強化しており、摘発された場合は退去強制手続きが取られます。
不法滞在者に対する罰則
| 違反行為 | 罰則 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 不法入国 | 三年以下の懲役もしくは禁錮、三百万円以下の罰金、またはその両方 | 入管法第七十条第一項第一号 |
| 不法残留(オーバーステイ) | 三年以下の懲役もしくは禁錮、三百万円以下の罰金、またはその両方 | 入管法第七十条第一項第五号 |
| 資格外活動(無許可の就労) | 一年以下の懲役もしくは禁錮、二百万円以下の罰金、またはその両方 | 入管法第七十三条 |
これらの罰則に加え、不法滞在者は退去強制処分の対象となります。退去強制された場合、原則として五年間は日本に入国できません(過去に退去強制を受けたことがある場合は十年間)。
出国命令制度
不法残留者のうち、一定の要件を満たす場合は「出国命令制度」を利用できます。自ら出入国在留管理庁に出頭し、出国命令を受けた場合は、退去強制と異なり入国拒否期間が一年間に短縮されます。
出国命令の要件は以下のとおりです。
- 自ら入管に出頭したこと
- 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 窃盗罪等の一定の罪により懲役または禁錮に処せられていないこと
- 過去に退去強制されたことがないこと、または出国命令を受けたことがないこと
- 速やかに日本から出国することが確実と見込まれること
不法就労助長罪とは
不法就労助長罪は、不法就労をさせた者や不法就労を斡旋した者に対する罰則です。入管法第七十三条の二に規定されており、企業の経営者や人事担当者が処罰の対象になり得ます。
不法就労助長罪の構成要件
不法就労助長罪は、以下の三つの行為類型で成立します。
| 行為類型 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者 | 自らの事業で不法就労の外国人を働かせること | オーバーステイの外国人を従業員として雇用した |
| 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者 | 不法就労させる目的で外国人を管理下に置くこと | 不法就労させるために外国人の旅券を取り上げて管理した |
| 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又はさせるためにこれを自己の支配下に置く行為に関しあっせんした者 | 不法就労の斡旋を業として行うこと | 不法滞在者をブローカーとして企業に紹介した |
罰則
不法就労助長罪の罰則は、三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金、またはその両方です(入管法第七十三条の二第一項)。
さらに、法人の代表者や従業員が業務に関して不法就労助長罪を犯した場合、法人に対しても三百万円以下の罰金が科される(両罰規定)ことがあります。
「知らなかった」は通用しない
不法就労助長罪で特に重要なのは、入管法第七十三条の二第二項の規定です。この規定では、「外国人に不法就労活動をさせた者は、当該外国人が不法就労活動をすることを知らないことを理由として、処罰を免れることができない。ただし、過失のない場合は、この限りでない」と定められています。
つまり、在留カードの確認を怠った場合や、在留資格の内容を確認せずに雇用した場合は、「知らなかった」という弁解は認められず、過失による不法就労助長罪が成立する可能性があります。
- 在留カードの確認をまったく行わなかった場合は過失が認定される可能性が高い
- 在留カードの偽造を見抜けなかった場合は、入管の番号照会システムを利用していれば過失なしと判断される余地がある
- 在留資格の範囲外の業務に従事させた場合、業務内容と在留資格の適合性を確認する注意義務が認められる
企業が実際に摘発されたケース
不法就労助長罪で企業や経営者が摘発されたケースを類型別に紹介します。
在留カードの確認を怠った
飲食店の経営者が、在留カードの確認を行わずに外国人をアルバイトとして雇用したところ、その外国人がオーバーステイであったことが判明し、不法就労助長罪で逮捕されたケースです。経営者は「日本語が上手だったので、てっきり正規の在留資格を持っていると思った」と供述しましたが、在留カードの確認義務を果たしていなかったとして起訴されました。
留学生を週28時間以上働かせた
コンビニエンスストアの店舗で、留学生を資格外活動許可の範囲である週28時間を大幅に超えて勤務させていたケースです。複数の店舗を掛け持ちしていたことを把握していたにもかかわらず是正しなかったとして、経営者が摘発されました。
在留資格の範囲外の業務に従事させた
製造業の工場で、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人を、通訳として雇用する契約でありながら、実際には工場のライン作業に従事させていたケースです。入管の調査により発覚し、不法就労助長罪として立件されました。
不法就労を防ぐために企業が取るべき対策
不法就労助長罪のリスクを回避するために、企業が取るべき具体的な対策を解説します。
採用時の確認事項
- 在留カードの原本を確認するはコピーではなく原本で確認する。顔写真と本人が一致することも確認する
- 在留カード番号の有効性を照会する。出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」システムで、在留カード番号が失効していないか確認する
- 在留資格と業務内容の適合性を確認する。採用しようとする職種・業務内容が、その在留資格で認められている活動に該当するか確認する
- 在留期間の残りを確認するは在留期間が間もなく満了する場合は、更新の見通しを確認する
- 資格外活動許可の有無を確認するは留学生などを雇用する場合は、資格外活動許可を受けているか確認する
雇用後の管理体制
- すべての外国人従業員の在留カード情報を一覧管理する(氏名、在留資格、在留期間満了日、在留カード番号)
- 在留期間満了日の三か月前にアラートを出す仕組みを構築する
- 資格外活動で就労する留学生の労働時間を適切に管理する(他社での就労時間も含めて週28時間以内)
- 配置転換や業務内容の変更を行う際は、在留資格との適合性を確認するフローを確立する
- 外国人雇用に関する社内研修を定期的に実施し、管理者の意識を高める
不審な点があった場合の対応
在留カードの真偽に疑義がある場合や、外国人の在留資格について不明な点がある場合は、以下の対応を取ってください。
- 出入国在留管理庁の在留カード等番号失効情報照会で確認する
- 最寄りの地方出入国在留管理局に相談する
- 行政書士などの専門家に相談する
- 疑義が解消されるまで雇用を保留する
入管法改正による罰則の厳格化
近年の入管法改正により、不法就労に関する罰則は厳格化の傾向にあります。
- 不法就労助長罪の法定刑の引上げが検討されている
- 在留カードの偽変造に対する罰則が強化されている
- 入管当局による企業への立入調査権限が拡充されている
- 悪質なブローカーへの取締りが強化されている
企業としては、「これまで大丈夫だったから今後も大丈夫」という意識を改め、法改正の動向を常にフォローし、社内の管理体制を適宜見直すことが重要です。
最後に
(不法就労助長罪は、企業にとって経営を揺るがしかねない重大なリスクです。特に外国人を多数雇用している企業や、初めて外国人を雇用する企業は、在留資格の確認と管理体制の整備を徹底してください。不安がある場合は、当事務所「在留資格センター」にご相談いただければ、在留資格の確認方法や管理体制の構築についてアドバイスいたします)


