特定技能と技能実習は、どちらも外国人が日本の現場で働く制度ですが、制度の目的、在留期間、転職の可否、報酬の基準など根本的な部分が異なります。企業が外国人材を受け入れる際に「どちらの制度を使うべきか」で迷うケースは非常に多く、制度選択を誤ると人材の定着にも法令遵守にも支障が出ます。さらに、2024年に成立した育成就労制度の創設により、技能実習は段階的に廃止される方向にあり、今後の受入れ戦略にも影響します。この記事では、特定技能と技能実習の違いを項目別に整理し、技能実習から特定技能への移行手続きや企業の判断基準まで、実務に即して解説します。
目次
特定技能と技能実習は「制度の目的」が根本的に異なる
特定技能と技能実習の最大の違いは、制度そのものの目的が正反対であるという点です。ここを理解しないまま受入れを進めると、法的にも実務的にも大きなトラブルにつながります。
技能実習制度は、正式名称を「外国人技能実習制度」といい、発展途上国への技能移転による国際貢献を目的として1993年に創設されました。あくまで「実習」であり、労働力の確保が目的ではないというのが建前です。そのため、実習計画に沿った業務しか行えず、転職(実習先の変更)も原則として認められていません(出典 出入国在留管理庁「技能実習制度の概要」)。
一方、特定技能は2019年4月に創設された在留資格で、人手不足が深刻な産業分野において即戦力となる外国人材を受け入れることを正面から目的としています。日本政府が「労働力確保のための制度」として初めて明確に位置づけた点が、技能実習との決定的な違いです。
(実務上、技能実習の「国際貢献」という建前と、現場での「労働力」としての実態の乖離は長年指摘されてきました。特定技能はその矛盾を解消するために設計された制度ともいえます。ただし、技能実習がすぐになくなるわけではなく、経過措置を含めて当面は両制度が併存します)
この目的の違いが、転職の可否、在留期間の設定、監理団体の関与など、あらゆる制度設計の差につながっています。企業が外国人材の受入れを検討する際には、まずこの根本的な違いを押さえた上で、自社に合った制度を選択する必要があります。制度の趣旨に反する運用は行政処分や受入れ停止のリスクがあるため、「なぜその制度を選んだのか」を説明できる状態にしておくことが実務上のポイントです。
特定技能と技能実習の違いを項目別に比較する
特定技能と技能実習の違いを、実務上よく確認される項目に絞って一覧にまとめます。受入れ方式や費用構造まで含めて比較すると、両制度の性質の違いが明確になります。
| 比較項目 | 特定技能(1号) | 技能実習(1号・2号・3号) |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 人手不足分野での労働力確保 | 技能移転による国際貢献 |
| 在留期間 | 通算5年が上限(1号の場合) | 最長5年(1号1年+2号2年+3号2年) |
| 対象分野 | 16分野(特定産業分野) | 90職種165作業(2024年時点) |
| 転職の可否 | 同一分野内で転職可能 | 原則不可(やむを得ない事情を除く) |
| 家族帯同 | 1号は不可、2号は配偶者・子のみ可 | 不可 |
| 受入れ方式 | 企業が直接雇用(登録支援機関に支援委託可) | 監理団体を通じた受入れが主流 |
| 技能水準 | 即戦力レベル(技能試験合格が必要) | 未経験者も受入れ可能 |
| 日本語要件 | N4以上またはJFT-Basic合格 | 入国時の要件は原則なし(N4推奨程度) |
| 報酬の基準 | 日本人と同等以上 | 日本人と同等以上(最低賃金以上が必須) |
| 監理団体の関与 | 不要(登録支援機関は任意) | 必要(団体監理型の場合) |
この表で特に注目すべきは、「転職の可否」と「受入れ方式」の違いです。特定技能では同一分野内であれば本人の意思で転職が可能であるため、企業は処遇や職場環境の改善を通じて人材をつなぎとめる努力が必要になります。一方、技能実習では原則として転職ができないため、人材の流出リスクは低いものの、その構造自体が「労働者の権利制限」として国際的に批判されてきた背景があります。
報酬面については、どちらの制度も「日本人と同等以上」の報酬が求められますが、特定技能は入管による審査が厳格です。実務上は、同じ業務に従事する日本人従業員の賃金台帳との比較まで求められることがあり、形式的に最低賃金をクリアしているだけでは許可されないケースがあります。
受入れにかかるコスト構造も大きく異なります。技能実習では監理団体への管理費(月額3万円から5万円程度が相場)が発生するのに対し、特定技能では登録支援機関への委託費(月額2万円から5万円程度)が必要になりますが、支援を自社で実施すればこの費用は不要です。ただし、技能実習では送出し機関への手数料や渡航費用など、入国前に発生するコストが特定技能より高額になるのが一般的です。
技能実習の「転職不可」は絶対ではありません。実習先での暴行やハラスメント、賃金不払いなど「やむを得ない事情」がある場合には、実習先の変更(転籍)が認められます。ただし、手続きは複雑で、外国人技能実習機構への相談が必要です。
技能実習から特定技能への移行は試験免除で可能なケースが多い
技能実習を修了した外国人が特定技能1号に移行するルートは、実務上最も利用されている移行パターンです。特に技能実習2号を良好に修了した場合、技能試験と日本語試験の両方が免除されるため、移行のハードルは大幅に下がります(出典 出入国在留管理庁「特定技能制度について」)。
免除の条件は、技能実習2号を「良好に修了」していることです。具体的には、技能実習の計画を問題なく達成し、技能検定基礎級(実技試験)に合格していることが要件です。実習期間中に失踪歴がある場合や、実習計画の認定が取り消された場合には免除の対象になりません。
なお、技能実習の職種・作業と特定技能の分野の間には対応関係が定められており、対応する分野への移行であれば試験免除が適用されます。たとえば、技能実習の「食品製造」関連の作業を修了した方が特定技能の「飲食料品製造業」分野に移行する場合は免除の対象です。対応関係にない分野への移行も制度上は可能ですが、その場合は技能試験と日本語試験の合格が必要です。対応関係の一覧は出入国在留管理庁のウェブサイトで公表されているため、移行を検討する際は事前に確認してください。
移行の要件と手続きの流れ
技能実習から特定技能1号への移行手続きは、在留資格変更許可申請として出入国在留管理局に申請します。手続きの流れは以下の通りです。
- 受入れ企業(特定技能所属機関)が雇用契約を締結する
- 1号特定技能外国人支援計画を策定する(または登録支援機関に委託する)
- 在留資格変更許可申請書と必要書類を出入国在留管理局に提出する
- 審査期間は概ね1か月から3か月程度(書類の不備がなければ)
- 許可が下りた後、新しい在留カードが交付される
申請に必要な書類は多岐にわたりますが、主なものとして、技能実習2号の修了を証明する書類(評価調書等)、雇用契約書、支援計画書、受入れ企業の登記事項証明書や決算書類、外国人本人のパスポートと在留カードなどが求められます。
(実務上のポイントとして、技能実習と同じ企業で引き続き特定技能として働く場合と、別の企業に移る場合とでは、必要書類が一部異なります。同一企業での移行であれば、企業側の書類準備はスムーズに進みやすいですが、別企業への移行では受入れ企業の要件審査がゼロから始まるため、時間に余裕を見ておく必要があります)
移行準備のスケジュールは技能実習修了の半年前から始めるのが理想
技能実習から特定技能への移行を円滑に進めるためには、技能実習の修了日から逆算して少なくとも半年前には準備を開始することを強くおすすめします。
具体的なスケジュールの目安は以下の通りです。
- 修了の半年前 — 移行の意思確認、受入れ企業の要件確認、必要書類のリストアップ
- 修了の4か月前 — 雇用契約の締結、支援計画の策定開始、登録支援機関への委託検討
- 修了の3か月前 — 在留資格変更許可申請の書類作成と提出
- 修了の1か月前 — 審査結果の確認、許可後の手続き準備
実務上、最も多いトラブルは「準備開始が遅すぎて、技能実習の在留期間が切れてしまう」というケースです。在留資格変更の申請中であれば、技能実習の在留期間が満了しても「特定活動(4か月)」への変更により合法的に滞在を続けることが可能ですが、そもそも申請すら間に合わないケースでは帰国を余儀なくされます。
企業側がよく見落とすのは、社会保険や税金の滞納がないかの確認です。受入れ企業として社会保険料の未納がある場合、それだけで不許可になる可能性があります。移行準備の初期段階で、企業側の法令遵守状況を点検しておくことが欠かせません。また、技能実習中に本人が住民税を滞納しているケースも散見されますが、こうした未納も審査でマイナスに働くため、移行準備と並行して税金の納付状況も確認しておくべきです。
技能実習3号の修了者が特定技能1号に移行する場合も、試験免除の対象です。ただし、技能実習で在留した期間は特定技能1号の通算5年に含まれません。つまり技能実習3号の3年(または5年)+特定技能1号の5年で、合計8年から10年の在留が制度上可能です。
企業にとっての選択基準は「即戦力が必要か」「長期雇用を前提とするか」
特定技能と技能実習のどちらで外国人材を受け入れるかは、企業の人材ニーズの性質によって決まります。両制度にはそれぞれメリットとデメリットがあり、一概にどちらが優れているとはいえません。
特定技能を選ぶべきケースは以下のような場合です。
- 入社後すぐに現場で戦力として働いてもらいたい
- 日本語でのコミュニケーションがある程度できる人材を求めている
- 転職のリスクがあっても、処遇と環境で人材を定着させる自信がある
- 監理団体を介さず、自社で採用・管理を行いたい
一方、技能実習を選ぶべきケースは以下の通りです。
- 未経験の外国人を一から育成する体制がある
- 実習計画に沿って段階的にスキルを身につけてもらいたい
- 監理団体のサポートを受けながら受入れを進めたい
- 送出し国との人材パイプラインがすでに確立している
実務上の判断ポイントとして、コストと手間のバランスも重要です。技能実習は監理団体への管理費に加え、送出し機関への手数料、入国前講習の費用など初期コストが高くなりがちです。特定技能は初期コストを抑えられる反面、転職が可能であるため人材の流出リスクがあり、処遇の改善や職場環境の整備にコストをかける必要があります。
(「技能実習なら3年間は確実にいてくれるから安心」という声をよく聞きますが、近年は失踪や途中帰国のケースも増えており、転職不可=定着保証ではありません。むしろ、労働環境が悪ければ失踪という形で人材を失うリスクがあり、企業の信用にも傷がつきます)
今後のことを考えれば、技能実習は育成就労制度への移行が決まっているため、新規に技能実習で受け入れることのメリットは年々薄れているというのが実務家としての率直な見解です。特に中長期的な人材戦略を考える企業にとっては、特定技能を軸に据えた受入れ体制の構築が現実的な選択肢になっています。
育成就労制度の創設で技能実習は段階的に廃止される方向
2024年6月、「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、技能実習制度に代わる「育成就労制度」が創設されることが正式に決まりました(出典 出入国在留管理庁「育成就労制度の創設等」)。施行は2027年を目途とされており、経過措置を含めて技能実習制度は段階的に廃止されます。
育成就労制度の最大の特徴は、「人材育成」と「人材確保」の両方を制度目的として明記した点です。技能実習が「国際貢献」を建前としていたのに対し、育成就労は日本の人手不足対策としての位置づけを明確にしています。制度設計上も、育成就労から特定技能1号、さらに特定技能2号へと段階的にキャリアアップしていく道筋が想定されています。
企業が今から意識すべきポイントは以下の通りです。
- 現在技能実習で受け入れている外国人は、経過措置により在留を継続できる見込み
- 育成就労制度では一定の条件のもとで転籍(転職)が認められる方向
- 受入れ対象分野は特定技能の分野と整合させる方針
- 監理団体に代わる「監理支援機関」が新たに設置される
育成就労制度の詳細な運用基準はまだ確定していない部分もありますが、技能実習から特定技能への移行を前提とした制度設計になることは明らかです。現在技能実習で受け入れている企業は、移行期間中の対応方針を早めに検討しておく必要があります。
(実務家の間では「育成就労は技能実習の看板を掛け替えただけではないか」という声もありますが、転籍の容認や監理支援機関の要件厳格化など、実質的な変更点は少なくありません。特に転籍が認められることで、企業間の人材獲得競争が激しくなることが予想されます。処遇の改善は待ったなしです)
特定技能と技能実習の使い分けで企業がよく迷うポイント
特定技能と技能実習の違いを理解していても、実際の受入れ場面では判断に迷うケースが多くあります。以下は、在留資格センターに寄せられる相談の中で特に頻度の高い質問です。
技能実習生を特定技能に移行させたいが、本人が別の企業に転職したいと言っている
特定技能への移行後は同一分野内で転職が可能です。技能実習期間中は原則転職不可ですが、特定技能に切り替わった時点で転職の自由が発生します。企業としては、移行前の段階で本人の意思を確認し、継続雇用を望む場合は処遇面での交渉を行うことが現実的な対応です。
技能実習と特定技能の両方で受入れ枠を確保しておきたい
法律上、同一企業が技能実習と特定技能の両方で外国人を受け入れること自体は可能です。ただし、技能実習の実習計画と特定技能の業務内容が混同されないよう、管理体制を明確に分ける必要があります。技能実習生に特定技能の業務をさせたり、その逆を行ったりすると法令違反になります。
特定技能の対象分野にない職種で外国人を受け入れるには技能実習しかないのか
技能実習は90職種165作業と対象範囲が広く、特定技能の16分野に含まれない業種でも受入れが可能です。ただし、育成就労制度への移行後は対象分野が特定技能と整合される方向であるため、長期的には選択肢が変わる可能性があります。
日本語がほとんどできない人材でも受け入れたい
技能実習は入国時の日本語要件が緩やかである一方、特定技能はN4以上の日本語力が必須です。日本語力が低い人材を受け入れて育成したい場合は、技能実習(将来的には育成就労)からのスタートが選択肢になります。ただし、入国後の日本語教育にかかるコストと時間を見込んでおくことが前提です。技能実習2号修了後に特定技能への移行を視野に入れるなら、実習期間中からN4レベルの日本語力を身につけさせる計画を立てておくと、移行がスムーズに進みます。
(よくある誤解として「技能実習から特定技能に移行すれば監理団体との関係は切れる」と思っている企業がありますが、特定技能に移行した後は監理団体の関与は不要になります。ただし、登録支援機関への支援委託は別途検討が必要です。監理団体がそのまま登録支援機関を兼ねているケースも多いため、移行時に支援体制をどうするか事前に決めておくことが重要です)
最後に
特定技能と技能実習は、制度の目的、転職の可否、在留期間、受入れ方式など根本的に異なる制度です。企業にとっては「即戦力が必要か」「未経験者を育成するか」「長期雇用を前提とするか」という観点から、自社に合った制度を選択することが求められます。加えて、育成就労制度への移行により技能実習は今後大きく変わるため、中長期的な視点での判断がこれまで以上に重要になっています。
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